三葉虫の世界

はじめまして。ormと申します。 私が購入して収集した三葉虫を中心にご紹介していきたいと思います。 広く深くロマン溢れる古生物の世界の一端を、少しでも感じて頂ければ幸いです。

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さて、以前の記事はもっぱら頭鞍の隆起具合や、頭鞍結節式にのみに注目していましたが、それ以外にも鑑別の目安があります。

以下の引用元はすべて、先の記事の約25年後に、Ramskoeldらにより発表された論文、Silurian encrinurid trilobite from Gotland and Dalarna, Sweden, 1986によります。

このプンクタトゥスという種には、この論文によると、3つの異なる形態 (亜種のようなものか) がありまして、この著者らはそれを、FORM A, FORM B, FORM Cと称しております。

以下に分布や形態上の特徴を図と合わせて記しました。
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FormA
7 21.17.02
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1. 分布
Type form (模式形態) . ビスヴィ床 (Visby Beds) やホークリント床 (Hoegklint Beds) で主に産出。
英国のウェンロック石灰層 (Wenlock limestone fm) でも多産.
2. 頭鞍前縁の結節数
ほとんど8個 (図中の黄色の丸)、稀に10個
3. CT1の矢状方向での位置
眼の後縁の後部
4. CT2とrachial溝 (Occipital ringの前の溝) の間の小結節の数
1〜3個 (緑四角形中の小結節)
5. 頬棘の形状
先端でカーブ

FormB
画像は省略
1. 分布
エストニアのみで産出.
2. 頭鞍前縁の結節数
ほとんど8個、稀に10個
3. CT1の矢状方向での位置
眼の後縁の後部
4. CT2とrachial溝 (Occipital ringの前の溝) の間の小結節の数
0か、稀に1個
5. 頬棘の形状
先端で微妙にカーブ

FormC
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1. 分布
ゴトラントのスライト床 (Slite Beds) のみで産出する.
特にゴトランド北西部のスライト泥灰岩で多産.
2. 頭鞍前縁の結節数
10個 
3. CT1の矢状方向での位置
眼の後縁の前部
4. CT2とrachial溝 (Occipital ringの前の溝) の間の小結節の数
なし
5. 頬棘の形状
先端はまっすぐ伸びる

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FormB はエストニアのみで産出ですので、今回は画像等は省略しております。

本当はもっと色々あったのですが、キリがないのと、私が今ひとつ理解できなかったので、載せるのをやめて、判断し易い部分だけ抜粋しました。
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それと、説明文中のCTというのはCircumocular tubercles (眼周囲結節) の略で、眼をぐるり一周取り囲む、頬部の大きめの結節のことです。

下図がわかり易いのですが、固定頬の結節に対して、外側の自由頬との境界部の結節から順に、CT4, CT3, CT2, CT1と名をつけております。

頭鞍結節式と合わせて、バリゾマ含めエンクリヌルス類の鑑別・記載に重要だそうで、論文中によく登場します。
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5
さて、この基準に照らし合わせて、今回の標本はどうかと見ていきますと、

1. まず分布は、ゴトラントのスライト床 (Slite Beds) であり合致
2. 頭鞍前縁の結節数は10個であり (前記事をご参照ください) これも合致
3. CT1の矢状方向での位置は、眼の後縁の前部と言えるような言えないような、、、保留
4. CT2とrachial溝 (Occipital ringの前の溝) の間の小結節の数は、まあ0と言って良いのかな
5. 頬棘の先端は確かにまっすぐ伸びています

というわけで、まあこれはFormCと言ってしまって良いのではないかと考えております。
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他、頭部の話ばかりしておりましたが、胸尾部に関しては、特に尾部は個体差激しく、非常にヴァリエーションに富むらしく、あまり鑑別の参考にはならないそうです。

プンクタトゥスの胸節の数は11程度とのことで、本標本は11〜12だと思うので、それも合っています。

というわけで、この標本はエンクリヌルス・プンクタトゥスのFormCということで良いのではないかと判断しております。

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最後にエンクリヌルス・プンクタトゥスのFormAと、E. tuberculatus (エンクリヌルス・ツベルクラトゥス) の関係について少し。

ツベルクラトゥスは、英国のウェンロック石灰層で産出するという事が、マニアには良く知られております。

一方で、非常によく似たプンクタトゥスとされる(名前がついている)英国産標本も見かけ、英国三葉虫マニアの私は、一体その両者は何が違うのだろう??と数年来の疑問でありました。
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手持ちのE. tuberculatus (マルヴァン、英国産。ウェンロッキアン。頭胸部と尾部が分離している)

前の記事の論文では『ツベルクラトゥスは、スウェーデンのプンクタトゥスに相当する (相同な) 種の、英国産のそれに割り当てられた名称である』という風な記述がなされておりました。
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そして今回の論文を読む限りでは、英国産のツベルクラトゥス = プンクタトゥス FormA ということなのではないかと疑っております。

実際、私の手持ちの上のtuberculatusは、今回・前回で挙げたようなプンクタトゥスの特徴 (頭鞍の膨らみ、頭鞍結節式ⅲ-0の存在など) を満たしており、頭鞍前方の結節数が8個であるなど、他にもFormAらしき特徴を満たしておりました。

また考えが変わるかもしれませんが、とりあえず私は今はそんな感じに理解しております。
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こちらは、別の手持ちのE. punctatusとされるもの
(ダドリー、英国産。眼も含めしっかり揃っているが、如何せん変形が激しい)


以上になりますが、今回はプンクタトゥスのみしか扱えなかったので、いつかマクロウルスを入手できれば、そちらも調べてみたいですね。

あとは、調べている過程でBalizoma (バリゾマ) の特徴などもちゃんと理解できましたので、また記事にしたいですね。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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Name: Encrinurus punctatus

Age: Middle silurian (Wenlockian)

Location: Slite mergel, Gotland, Sweden

Size: 42mm

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実に美しい標本、Encrinurus punctatus (エンクリヌルス・プンクタトゥス) です。

この標本は、色々なコレクターの所を転々としたようなのですが、つい先日、私が譲り受けることとなりました。10年近く前に有名コレクターの方のHPで見かけた時から、ずっと心に残っていた標本でしたので、いっときでも身近に置けて、本当に感無量です。

産地はスウェーデンのゴトランド島。それ以上の詳細産地は分からなかったのですが、web記録を見る限り、ゴトランドでもSlite Mergelと記されております。
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昔から、本当に素晴らしい標本だなと思うと同時に、何だか妙だなとも思っておりました。というのも、ゴトランドのエンクリヌルスはマニアには有名でありますが、この標本とは、サイズや色合いが全く異なります。

市場で偶に見かけるゴトランドのエンクリヌルスは、マニアならよく知っている通り、E. macrourus (マクロウルス) という種でしょう。
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上記はAMNH標本、背まわり40mmとのこと

マクロウルスはサイズは小さく、だいたいは20mmまでのものが多く、どれほど大きくとも30mmを大きく超えることはありません。(上の標本は40mmと本種にしては、超巨大ですが最上級標本を有するAMNHのものなので特別です、、)

色合いは上写真のような濃い茶色であることが多いように思います。ついでに何故だか知りませんが、写真の通りポージングは母岩にしがみ付くような、上に凸の体勢の標本が大体数です。
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対して、本標本はサイズは42mmと非常に大きく、色合いは飴色〜明るい黄土色です。姿勢もまっすぐ伸びています。

更に母岩はどちらも石灰質でありますが、通常種が灰色の母岩であるのに対して、こちらは青みがかっております。青灰色のチャートでも混じってるのかというような色合いです。

何より頭部の形、特に膨らみ方が全く異なります。通常種に比べて、本標本は頭鞍の膨らみ、曲率が明らかに大きいです頭鞍の顆粒の数も本種は多いように思います

ここまで違うと別種の可能性があります。可能性というか、もうこれは別種としか思えません。
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実際、本標本の名前はこれまでの所有者の時以来、代々、E. punctatus (プンクタトゥス) とされております。ただプンクタトゥスというと、私はむしろ、英国のダドリーやシュロップシャーのエンクリヌルスが思い浮かびます。

さらに、時代も本種がMiddle silurianとされるのに対して、マクロウルスは通常、Upper silurian と表記されていることが多いようです。

エンクリヌルスの鑑別は、頭鞍の結節の数や配置などが重要と、なんとなく把握されている方は多いとは思います。かつて英国エンクリヌルスの入手時には、面倒くさくてサボってしまいましたが、これを機に真面目にどのように鑑別するのかを記してみます。

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さて、まずはこの標本の謎に迫ってみます。

突き止めたい事は、とどのつまり、なぜこんなにも見た目が違うのか??という点。それから、この標本は市場で偶にならば見かけるマクロヌルスでなく、本当にプンクタトゥスという名の種なのか??という点です。

ゴトランドだけで見ても、実際はエンクリヌルスは他にも複数種いるのですが、まずはマニア的視点から、市場に比較的出回るもの、つまりマクロウルスとの違いに注目してみます。

本種とマクロウルスのわかっている範囲内での違いを以下に纏めます。
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1. エンクリヌルス・プンクタトゥス (仮)
時代
シルル紀中期 (Middle silurian)
産地
ゴトランドのスライトマーゲル (Slite mergel)。スライトは地名ですが、mergelって何かな?と思い調べた所、marlのドイツ語表記のようですね。marlとは泥灰岩のことで、石灰岩成分の混じった泥岩のことです。
見た目・形態
本体は黄土色。母岩は青灰色。サイズは比較的大きく、頭鞍は大きく膨らむ上、顆粒の数は多め。
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2. エンクリヌルス・マクロウルス
時代
シルル紀後期 (Upper silurian)
産地 
ゴトランドのスプロージ (Sproge) 、ヘムス累層 (Hemse formation) とされる標本が多いようです。
見た目・形態
本体は暗い茶色。母岩は灰色。サイズは小さく、頭鞍の膨らみは目立たない
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名前はさておき、まず産地から攻めて見ます。
とりあえず、Slite mergel、Slite marlなどwebで調べてみたのですが、特に何もヒットしません。

ゴトランドは上の地図の通り南北に長い島です。
まずはそもそもスライトという地がどこにあるのか、調べてみました。上地図の赤矢印の位置のようです。一方、黒矢尻付近がスプロージ周辺で、一応累層の名前の元になったヘムスは青矢尻部分ですね。
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スライトという町の全貌は上の写真の通りです。

今は観光地としても食っているようですが、wiki情報によると、昔からセメント工場として栄えたとのこと。写真中の工場は明らかにそれですね。

セメントの原料のメインは石灰岩ですし、多分この標本は、セメントのための原料を採掘時、あるいは完全なセメント採掘場と化す前に、地層が調査され、スライト泥灰岩層の基準地となったんじゃないかなという気がします。
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Carbonate petrography of the wenlockian slite beds at Haganas, Gotland, 1982より

上はゴトランドの北半分の地質の地図です。

ゴトランド北西部〜最北部に広がるSlite beds (スライト単層/床) と呼ばれる地層について記されております。うち、斜線部のLimestones部は石灰岩質 (泥岩が混じらない) で、濃灰色一色の部分は、Marlstones (石灰岩まじりの泥岩) に富むとのことです。この斜線+濃灰色領域が、ゴトランドのスライト床であります。

脇道にそれますが、〜Bedというのは地層の最小単位のようなものです。
包括関係は、Group (層群) > Formation (累層) > Member (部層) > Bed (単層) という感じですね。ただし、Bed/Bedsは文脈によっては、厳密に単層でなくとも使用されることもあるようです。よって以下では、スライト床と訳しておきます。

したがって、本種の産地として記されていたSlite mergelというのは、とどのつまり、スライト床のうち上図のMarlstonesに富む地域であると思われます。

地図と照らし合わせると、先ほどのスライトの街も、確かにこの領域に含まれておりますね。
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また別の地図なのですが、こちらはゴトランドの南半分を記した地図です。
画像が切れかかっている上部のチェック柄の領域が、先ほどのスライト床ですね。

一方、マクロウルスを産出する地域はヘムス累層 / あるいはヘムス床であり、上図斜線領域と灰色領域に挟まれた白抜けの部位です。図中に記されているように、黒下三角がマクロウルスを産出する地域であります。

2地点はずいぶん距離が離れた全く別の層なので、母岩や本体の色合いが全く違う理由は、納得できます。
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あと時代についてですが、このスライト床はシルル紀の中でも、シルル紀中期のウェンロッキアン (Wenlockian) であります。一方、ヘムス累層は、シルル紀後期のラドロヴィアン (Ludlovian) です。より細かくは、ラドロヴィアンでも前期のゴルスチアン (Golstian) のようですね。地質年代については、上の表参照。

上の情報のまとめの通り、本標本はシルル紀中期、マクロウルスの標本はシルル紀後期でしたから、この辺りも整合性が取れております。

さて、本題の標本自体についてです。
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今回エンクリヌルス類の同定にあたり上の論文を使用しました。
1962年と昔の論文なので、ひょっとするとその後、一部は種名変更などがあった可能性があります。

英国と欧州 (スウェーデンとエストニア) で産出する、シルル紀のエンクリヌルス全般の記載、およびその見分け方などが纏められていて、この地域のエンクリヌルスの区別に困った場合は、よき指標になるかと思います。

この論文で両者の鑑別に重要かつ簡便な、記載の肝を一部抜粋します。
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プンクトゥスの記載に関して、
『〜頭鞍は楕円形で強く凸状。頭鞍前部の外形は、強く丸みを帯び,後方に向かうにつれ、急峻に幅(横径) が狭くなり,前部の幅の約3分の2程度となる。頭鞍は横断面で強く凸状となり、頭鞍後部においても頬部の海抜を上回る〜』

マクロウルスの記載に関して、
『〜E. punctatusとは特に以下の点で異なる。頭鞍はより前方で横幅広く膨らみは目立たず、頭鞍後部において、頬部の高さを超えることは滅多にない〜』

詰まる所、プンクタトゥスはマクロウルスに比べて、頭鞍の膨らみが強くボール状で、頬部の高さと比べても、より高く凸に突出する。マクロウルスは頭鞍は平べったいが、前方部の横幅は広いという話です。

パッと見た時の一番簡単にわかる両者の違いは、ここだと思います。
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本標本は確かに頭鞍部がボール状に膨れ上がっており、記載の通り、頭鞍後部でも頬部の高さを上回ります。

一方、マクロウルスは私は標本を自分で持っていないので厳密には調べられないのですが、確かにAMNHほか巷の標本を見ても、頭鞍は前方において横幅は広いのですが、凸感がないというか、全体的にべちゃっとしております。

確かにこれだけでも、少なくとも、本標本はマクロウルスではなさそうだなという事がわかります。
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R. P. Tripp et al, The silurian trilobite Encrinurus punctatus (Wahlengerg) and allied species, 1962より

さてようやく本題に入りますが、エンクリヌルスの区別には頭部の顆粒の配列パターンを使うことが多いです。

頭鞍結節式 (Glabellar tubercle formula) と呼ばれておりますね。
読む気が失せるでしょうが、、一応以下小文字で説明します。

1.
まず結節の並びを横に見て、後方から前方の各結節列 (row) に、ローマ数字の大文字Ⅰ〜Ⅵまでを割り振る。エンクリヌルスの仲間は、このように6列あることが多い.
2.
Ⅰ〜Ⅵ結節列のそれぞれにおいて、左右ペアになっている各結節に、正中から外側に向かって、アラビア数字を割り振る。正中部が0 (これだけはペアがなくて良い) で、そこから1, 2, 3という具合にナンバリング.
3.
ペアがない結節は、たまたま(個体変異的な意味で) 存在している結節と判断し、ナンバリングの対象から外す。図の黒丸。
4.
エンクリヌルスの大半では結節列がないはずの列にも、結節がある場合には、小文字のローマ数字を割り振り、同様にそれぞれの結節にアラビア数字を割り振る。例えば、図CのE. punctatusの小文字ⅲ - 0 (多くのエンクリヌルスではないⅡ結節列目とⅢ結節列目の間に結節がある為、小文字ⅲを割り当てている) というふうに.
5.
結節が列から前後にズレる場合、* (図ではx印) を割り振ります。前にずれている場合は、アラビア数字の右上に*を、後ろなら右下に*をつけます.


細かすぎて嫌になってきますが、ともかく、これをしないとエンクリヌルスの区別は始まりません。

頭鞍の一番先端の結節がナンバリングがされておりません。
この最前列は結節列に含まれないのですが、後に述べるように、これも両者の区別に重要になってきます。
1
2
正直全く気が進まなかったのですが、これをやらないと先に進めないような気がしましたので、やむ無くやりました。

本標本の結節式は上の書き込みの通り、Ⅱ-2,1  ⅲ-0  Ⅲ-3,1  ⅳ-1,0*(下側)*(上側)   Ⅳ-3,2,1  ⅴ-0  Ⅴ-2,1  Ⅵ-3,2,1となります。図中の黒点線は正中線です。

論文中のプンクタトゥスの結節公式は、
Ⅱ-2,1  ⅲ-0  Ⅲ-3,1  ⅳ-1,0*(上側)   Ⅳ-3,2,1  ⅴ-0  Ⅴ-2,1  Ⅵ-3,2,1

一方で、マクロウルスの結節公式は、
Ⅰ-0  Ⅱ-2,1  Ⅲ-3,1  ⅳ-1  Ⅳ-3,2,1  Ⅴ-2,1  Ⅵ-2,1

というわけで、本標本の結節公式はプンクタトゥスのそれに倣うというわけです。

、、と言い切りたいところですが、上の画像の通りⅳ列よりも前方がかなりナンバリングが怪しくなっております。ただⅢまでに関しては、はっきりと数えることができます。

特にⅲ-0が存在することが、プンクタトゥスとマクロウルスの鑑別には重要なのだ、ということが記載されています。またⅠ-0がないことも、プンクタトゥスの特徴として重要とのことです。

ただし、Ⅰ-0はマクロウルスでも全体の35%程度の個体にしか存在しないようですが。
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R. P. Tripp et al, The silurian trilobite Encrinurus punctatus (Wahlengerg) and allied species, 1962より

図1 - 4. Encrinurus macrourus
1, クリンテベルク層群、エクスタ
2, ホグクリント層群、カップルシャウン
3, クリンテベリ層群、エクスタ
4, ヘムセ (Hemse) 層群、ペテスヴィーケン、ハビングボ教区

図9 - 11. Encrinurus punctatus
9, スライト (Slite) 層群、エスケレム (Eskelm)
10, スライト (Slite) 層群、フォリングボ (Follingbo)
11, ホークリント層群、「ヴァッテンファレット」(「ウォーターフォウル」)


他の図は以下の通り (詳細略)
図5-8. Encrinurus tuberculatus いずれも英国産  
図12. Encrinurus stubblefieldi 
図13-14. Encrinurus punctatus  エストニア産のプンクタトゥス 図15. Encrinurus sp.
図16. Encrinurus onniensis  シュロップシャー産 図17-20. Encrinurus variolaris  (=Balizoma variolaris) ダドリーなど英国産

更に困ったことに、エンクリヌスは同じ種であっても上図の通り、産地や層群の違いによって、この結節式に割とバリエーションが見られるようです。

実際、図9と図10はともにスライト層群から産出するプンクタトゥスですが、特にⅳ列より前方は両者で結構異なる気がします。

ただそれでも、ⅲ-0はプンクトゥスで存在するのに対し、マクロウルスでは存在せず、これは一貫して鑑別に重要そうです。
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さてまだ続くのかという感じですが、頭鞍の最前列の結節の数も、プンクタトゥスとマクロウルスの区別に重要です。

プンクトタゥスの場合、この結節の数が、8,9ないしは10個であるのですが、正中線上に乗ることがありません。一方、マクロウルスの場合、多くの場合は結節数は通常9個で正中を横切る上に、10個の結節をもつ個体は滅多にないようです。

したがって、10個の結節をもつこの個体は、やはりプンクタトゥスだろうということになります。正確には、10個の結節を持つ (もちろんそれ以外にも特徴がありますが) このタイプは、フォームC (FormC) と呼ばれるタイプであります。

プンクタトゥスは、産地や形態から、Form A, B, Cと分類することができます。長くなってきたので、この細分類については次回やります。
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最後にサイズについてです。

別論文も合わせた記述ですが、プンクタトゥスが大型になるのに対して、マクロウルスは大きくても、せいぜい25-30mmが関の山で、滅多にはないがマックスが40mm程度ということでした。

というわけで、この標本は産地、時代、形態的にもエンクリヌルス・プンクタトゥスであることに関しては、疑う理由がなさそうです。

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今回のまとめは以下です。

プンクタトゥス
産地はゴトランド北西部、スライト層群 / 床の産が多い
マクロウルスよりやや古い (Wenlockian) の層から多く産出
サイズは40mmオーバーなど大型
頭鞍の膨らみが強い
頭鞍結節式において、ⅲ-0が存在する
頭鞍最前列の結節は8-10個で、正中線上にない
上記が10個のものは、FormC

マクロウルス
産地はゴトランド南部地域、ヘムス層群などの産が多い
マクロウルスよりやや新しい (Ludlovian) の層から多く産出
40mmに達することは滅多になく、10-20mm台が大半
頭鞍は平坦
頭鞍結節式において、ⅲ-0が存在しない
頭鞍最前列の結節数は通常9個で、正中線上にある


色々書き切れなかったので、次回に続きます。

いつも以上のごちゃごちゃした長文ですいません。
読んでいただきありがとうございます。

前回の記事で言及していた三葉虫ですが、あまりにも気になりまして、直接Enrico Bonino氏に問い合わせてみました。

早速この三葉虫に関する情報と、ブログなどでどうぞ自由に使っても良いよとのことで、ご丁寧にも何枚か、この三葉虫の高解像度な写真を頂きました。

本種には、スカブレラ、ダイフォン、ロクマノオレネルスなどに続き、久々にガツンとやられました。

この種は、ぜひ皆さんと共有したいと思いますので、私の標本でも何でもないのですが、ここにて標本紹介をさせていただきます。
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どうでしょう、この異様な姿 。
驚くべきはそのサイズで、全長13インチ (32-33cm) もあるそうです !

産地はネバダのWenban limestone 累層 (デボン紀) 。前回の記事の、私の大穴予想が当たりました。なんの自慢にもなりませんが、当たってちょっと嬉しいです笑

このモンスターとしか形容仕様のない三葉虫の名前は、"Godzillaspis cooperi (ゴジラスピス・クーペリ) " 。もっとも発掘が2017年で、プレップが完成したのが2022年とごく最近とのことで、このゴジラスピス・クーペリという名は、現時点では仲間内でそう呼んでいるだけと言いますか、裸名 (nomen nudum) のようです。

属名は想像がつくように、怪獣の王様であるゴジラとでも形容したくなる、その怪物的な見た目によります。また、有名プレパレーターのベン・クーパー氏がプレップしたようで、それが種小名のクーペリに反映されているようです。
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サイズ感が全然違うのですが、尾部はどこかエンクリヌルスのような見た目をしています。

胸部はトゲトゲ種といえばそうなのですが、棘がなんと言いますか、全体的に不規則な場所から不規則な方向に、好き好きに生えていえるという塩梅です。

この傾向は、ある程度大きなサイズの棘を持つ三葉虫に、しばしみられるパターンであります。有名どころでは、ドロトプスの一部の個体や、あるいは、棘ありスカブレラなどで同じような不規則な棘の生え方が見受けられます。
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尾部、胸部の時点で、既になんだこれと言うようなフォルムなのですが、本種の最大のびっくりポイントは、その頭部であります。

上の写真は本種を左正面から見た写真です。特に複眼の上が異様で、眼のひさしに当たる部分から、その周に沿って、剣山のように野太い棘が複数本、生えています。

さらに頭部の一番前の部分(頭鞍の前?)に、これまた太い棘が、2本角のようににょきっと飛びてています。

こんな訳のわからない特徴を持つ種を、私は他に知りません。
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複眼のどアップの写真も頂いたのですが、それが上の写真です。

これまた意味がわからないのですが、"かさ"の高い眼を持っていて、その様はまるで、モロッコデボン紀のエルベノチレのようです。
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もう一つおまけにですが、頭部の特に側面、頬部をご注目ください。リカスの仲間などを思わせる、大きめの顆粒、ぶつぶつが頬全体を覆っております。頭部ほどではないですが、胸部・尾部などにも、全体的にぶつぶつがあるようです。

分類としては、複眼から考えても、phacopida (ファコプス目) であることは確実でしょう。その先としては、おそらくphacopina (ファコプス亜目) だと思うのですが、やはり眼の感じからも、Acastoidea (アカストイデス上科) - Acastidae (アカストイデス科) と続くような気がしますね。

一見色々な種の特徴が、つぎはぎミックスされた三葉虫のように思えるのですが、ベースはErbenochile erbeniあたりが近いように思えるんですよね。
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この標本のプレパレートの総時間は、何と1250時間 (約52日 !!) もかかったようです。

新種ですので、プレップの際の指標がないことや巨体であることも理由でしょうが、何よりWenban累層の石質と言うのは非常に硬いらしく、それも理由であろうと思われます。

この標本、地層褶曲の影響で、上下にやや潰れていると思われます。本産地では、有名どころでは、拙ブログでも紹介済みのViaphacops claviger (ビアファコプス・クラビゲル) などが産出するのですが (他もOdontochileなどが一応出るようですが、滅多に産出しないようです) 、たいていの標本で押し潰されたような個体がほとんどです。

ちなみに修復率は10%未満とのことです。そういう意味でも、とてつもなく貴重な標本ですね。
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こちら、前回の記事で紹介した図鑑、"The back to the past museum guide to trilobites Ⅱ"を飾る本種の表紙です。実に楽しみですね。

そんな訳で、久々の標本紹介は、自分の標本ではないものとなりました。2022年ごろには既に、界隈のマニアには紹介されていたようなので、今更だったらすいません。

人類が三葉虫を"発見"してから、かれこれ、300年近く経ちます。それなのに、未だにこんなお化けのような新種の三葉虫が見つかるなど、三葉虫の世界の広さと深さには、改めて驚かされます。

何気なく、エンリコ・ボニノさんのfacebookのページを見ていたら、昨年末に嬉しい報告があった。

どうやら、かのBack to the past museum guide to trilobitesの新刊が出るようだ。以前も改訂版が出ていたが、今回はタイトルの末尾に"Ⅱ" とついている。内容ががらりと一新されるのだろうか。

勿論中身は気になることならがら、表紙を飾る三葉虫に度肝を抜かれた。
画像は以下、ボニノさんのホームページを参照して頂きたい。
https://enrico-bonino.eu/

ページを下にスクロールしていくと、まもなく目に映ってくるのがそれ。
奇抜な形の三葉中は世に数多あれど、これまた輪をかけてBizarre。

尾部など、全体的なフォルムはエンクリヌルスのように見えなくもないが、画像で確認できる限りでは目のかさが高く、エルベノチレに近い種類なのだろうか。

特に目を引くのは、全身を覆う不規則かつ長い棘。胸尾部はもとより、頭鞍や何より眼の上に派手な棘が並ぶ。尾部寄りに野太い棘が並ぶ感じなど、棘ありスカブレラを彷彿とさせなくもない。

色々な種類の三葉虫の特徴が混じった、まさに"鵺 (ぬえ)"のような種に見える。

サイズも気になるところで、20cmオーバーのかなり巨大なサイズに見えなくもない。時代としては、装飾の派手さから見て、デボン紀じゃないかなと思うが。

そして、産地は一体どこなのだろうか。標本と母岩の色合いを考えれば、普通に考えればモロッコ・デボン紀の標本に見える。ただ、このような色合いの三葉虫を産出する産地で、かつ何となく母岩が硬そうに見えることから、大穴で、Viaphacops clavigerなどを産出するネバダのウェンバン累層を挙げておく。

もし既に本種を知っていらっしゃる方がいれば、コメントなどで教えていただけると有り難いです。

本書籍自体は、2024年の早い時期に出版されるとのこと。実に楽しみです。

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最近ネタがなく、その数少ないネタもmuuseoに書いてしまっていて放置気味だったので、雑談的な話を載せました。

5月頃から断続的に、標本整理の為にヤフオクで出品を繰り返していました。

まだ三葉虫以外含め少量出品しており、これからもちょこちょこと整理するかもしれませんが、お陰様で、少なくとも当初に放出を考えていた三葉虫は、ほぼ全て放出し終えました。

みなさま、ご協力まことに有難うございました。 

(続きです)

さて、話はちょっと変わり、時代的なことに言及してみます。この三産地はカンブリア紀中頃の時代でありますが、それではあまりにも曖昧なので、より細かく見ていきます。

カンブリア紀の年代全体を俯瞰してみます。
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時代の正式な分け方の基準として、国際年代層序表というものがあります。上にカンブリア紀だけ抜き出して簡単にまとめました。

カンブリア紀のような紀/系 (period/system) は、より下の階層で、seriesに分けられます。具体的には、古い順にCambrian series2Cambrian series3 (またはミャオリンギアン (Miaolingian) ) < フロンギアン (Furongian) と分類されます。

ついでに、それぞれのseriesの産地等を簡単にまとめてみます。

Cambrian series2 (521-509Ma)
series2は、いわゆるカンブリア紀前期 / Lower Cambrianであります。

このカンブリア紀前期は、一つ前の時代のエディアカラ紀などのふにゃふにゃした生き物に代わり、初めて硬い外骨格、ないしは少数は簡単な脊索状の内部構造を持つ生物が登場した時期であります。中でも、三葉虫は初めて硬い外骨格を持った生物の中でも主役級で、まさに進化の目撃者であります。

三葉虫の属する節足動物門の他、脊索動物門 (脊椎動物 (亜門) も含むより広いグループ) 、軟体動物門、腕足動物門、腕足動物門など非常に多くの門が登場しました。現存の大半の動物門が出現し、その体制/ボディプランが固定化し、方向づけられた時期であるとも言えると思います。

しかし、なぜカンブリア紀の初期に、こうした生物の形の大変化と多様化があったのでしょうか?

外部要因的には、よく言われるようにカンブリア紀の酸素濃度の上昇だとか、大陸移動に伴う大陸棚・浅瀬の出現であるとか、またその結果としての、アンドリュー・パーカー氏が指摘したような眼の誕生が、飽くなき軍拡競争 (と、それに伴う外骨格の硬質化など各生物の形態変化) の引き金になったのかもしれません。

また、こうした多様化・系統樹の分岐の開始は、分子系統解析などの証拠からは、カンブリア紀初期でなく、もう数千万年前にあったのではないかと見る向きもあります。曰く「600Ma前後、あるいはエディアカラ紀前後に多様化し、しかし、まだその頃には小さい柔らかい生物が多かった。そしてカンブリア紀に入って、大型化と外殻などの硬質化が進んだことで、化石が多く残るようになり、突然の化石記録の増大からカンブリア紀にあたかも、『爆発が生じている』かのように見える」と。

著書を読むと、リチャード・フォーティ氏などもそういう考えですね。著書『Trilobite ! 』の中で、爆発論者のスティーブン・ジェイ・グールド氏を繰り返し批判しています。現在は、こちらのストーリーが主流だとは思います。

一方、形態変化が起きた内的なメカニズムとしては、発生の初期過程の大きな変化 (あるいは、英国の発生学者コンラッド・ウォディントンの言うところの、エピジェネティック・ランドスケープの変化) が原因となったのではないかとみる仮説もあります。発生初期の大変化がなければ、あそこまで形態が激変するとは思えず、実際、納得のいく仮説であります。

エディアカラ〜カンブリア紀の進化のストーリーの解明は、実際に研究するとなると、かなりの無理難題ですが、あれこれ想像を巡らせたり横槍を入れるだけなら、楽しいものです。

さて、無理やり三葉虫に話を戻します。

カンブリア紀の具体的な産地としては、当ブログで、いつぞや中国の三葉虫シリーズで紹介した、多くの累層 (チェンジャン (澄江) 、シャオシバ、馬龍、関山など) がこの時代に相当します。

米国の産地なら、キャンピト (Campito) 、ポレタ (Poleta) 、ピオーチェ (Pioche)、カララ (Carrara) 、ロシアの産地ならシンスク (Sinsk) 、モロッコならジーベルワウモスト (Jbel Wawrmost) 、オーストラリアの産地なら、エミューベイ (Emu bay) 。これらが、すべて基本的にはこのseries2ですね。

そしてこのseriesというものが、ややこしいことに更に下の階層で、stageというものに細分されます。以下の表の通りこのseries2の場合、より古いstage3 (521-514Ma)と、より新しいstage4 (514-509Ma) に細分化されます。

このMaというのは、Mega annumというラテン語の略語で、1Maが百万年を示します。たとえば、521Ma = 5億2100万年前という意味です。

澄江やシャオシバ、ポレタ、キャンピト、シンスク(注: 上部層はstage4に及ぶ) などが最古のstage3です。馬龍や関山、ピオーチェ、カララ (注: 上部層のAlbertella zone, Glossopleura zoneなどはMiddle Cambrian のウーリアン) 、ジーベルワウモスト (注: 上部層はMiddle Cambrianのドルミアンにも及ぶ) 、エミューベイなどはおおよそstage4に相当します。

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余談ですが、Cambrian series2の更に前に、一番最初の表に示した通り、実はテレニュービアン (Terreneuvian) という、カンブリアの真の最初期のseriesがあります。事実上のseries1であり、その下層のstage1 (一般にstage1と呼ばずフォータニアン (Fortunian) と言います) とstage2も含まれています。

ただ、この時代には三葉虫は勿論、実は、ぱっと見「あ、生き物だな」と思えるような、はっきりした化石は出ません。

この時代からは、微小有殻化石群 (SSFs: Small Shelly Fossils) という、炭酸カルシウムだったり、リン酸カルシウムだったり、二酸化ケイ素でできた、何らかの生物のミリ単位の微小なカケラのようなものが出るのみです。
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はっきりした正体は判明してませんが、そのうち少数は、澄江の葉足類 (たとえば、上図のミクロディクティオンなど。黒い楕円部分がリン酸カルシウムがメインの成分) に似た生物の体の一部だったことはわかっているようです。

三葉虫関連の色々な本を見ていると、カンブリア紀の始まりが5億4100万年なのに、最古と言われる澄江の地層が約5億2000万年前後で、約2000万年の謎の空白がある事に気づきます。テレニュービアンがこの2000万年分にあたります。

澄江や他の最古地域の三葉虫を集めていて、私以外にも、最初の2000万年はどこにいったんだ!?と不思議に感じた方も結構いるんじゃないかと思うのですが、これこそが空白の理由です。

実は、カンブリア紀の暁の時代には三葉虫はいないのです。したがって、三葉虫コレクター的には、実質はCambrian series2からが本当の始まりですね。
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Cambrian series2 / ミャオリンギアン (Miaolingian) (509-497Ma)
長い余談でした。

話を戻しますと、ウィークスを含む、俗に言うカンブリア紀中期 / Middle Cambrianというのは、このseries2の次のseries3 (ミャオリンギアン) が、おおよそ当てはまると言っていいんじゃないかと思います。年代でいうと、5億900万年〜4億9700万年ですね。

そして、このミャオリンギアンは古い順にstage5 (またはウリューアンWuliuan) (509-504.5Ma)<ドルミアン (Drumian stage) (504.5-500.5Ma)<ガズハンギアン (Guzhangian stage) (500.5-497Ma)というstage に細分類されます。

seriesもそうですが、やたら数字 (series2とかstage5とか) と固有名詞 (フロンギアンとかガズハンギアンとか) が入り混じってややこしいのですが、要は元々数字で読んでいたけれど、stageやseriesによっては固有の名前が付いていて、まだ付いていないものを数字で呼んでいると思って、たぶん差し支えないと思います。

さて、ハウスレインジの地層は、古さ順にウィーラー<マージャム<ウィークスとなります。このうち、ウィーラーとマージャムはドルミアン (Drumian stage) におおよそあたり、ウィークスはガズハンギアン (Guzhangian stage) にあたります。

ちなみにドルミアンの一つ前のウリューアンには、有名なバージェス頁岩 (Burgess shale) や中国のカイリ凱里 (Kaili) 、それからユタ州ならスペンス頁岩 (Spence shale) などが、おおよそ相当します。

なお超細かく言えば、ウィーラーの下部の層は、このウリューアンにも及んでいて、文献によってはウィーラーはウリューアンと書いてあったりします。地層の下部がウリューアン、上部がドルミアンという事です。なおチェコの有名なインツェ (Jince) もこのウリューアンですが、こちらも上部層はドルミアンに及んでいます。

地層には年代的な幅があるので、実際は一つの時代だけで括りきれない部分があります。そういう話でいうと、カイリなども実は下部層はseries2にも及んでおり、バージェスなども実は結構幅があるので、一概に、この地層はこの時代!と言えなかったりします。

ただ人の頭は、範囲のあるものを覚えるのが苦手な構造をしているので、この層は大体この時代と覚えておいて、まあ幅はあるけれど、ぐらいに考えておくのが良いんじゃないでしょうか。少なくとも趣味の範囲内では。

ここまでの長い説明を、ハウスレインジのみに関してまとめるなら、ハウスレインジの三産地はカンブリア紀中期のseries3 /ミャオリンギアンにあたり、ウィークスはその中でも一番新しい時代のガズハンギアンに相当する層。マージャムは中頃のドルミアン、ウィーラーは一番古くドルミアン+ウリューアンの層であるということですね。

フロンギアン (Furongian) (497-485.4Ma)
カンブリア紀では最も新しい時代 (series) です。カンブリア紀後期 / Upper or Late Cambrianというやつです。

カンブリア紀後期は、生物の多様化が爆発的に進んだオルドビス紀初期 (そのまんまですが、オルドビス紀の生物大放散事変 (GOBE: Great Ordovician Biodivertification Event) などと呼びます) に繋がる前段階の時代であります。

カンブリア紀初期が、おおざっぱな門が出揃った時期だとすれば、オルドビス紀初期は門以下の分類 (綱、目、超科、科など) が、きめ細かく多様化した時代です。この時代に大多様化・細分化を遂げた各生物は、基本的にはペルム紀の終わりまで繁栄する事になります。三葉虫はペルム紀末を待たずに、オルドビス紀の終わりに、種数的には大体力尽きてしまいますが‥。

カンブリア紀/オルドビス紀境界は、そういう意味で個人的に興味深く、オルドビス紀の三葉虫大放散事変 (そんな言葉はないですが) の萌芽とも言えそうな、一見、primitiveにみえる三葉虫が多い気もします。

この時代の具体的な有名産地としては、このブログでもよく取り上げている、カナダのマッケイ (McKay group) や中国のサンドゥ (Sandu) などが相当します。

フロンギアンは、ペイビアン (Paibian) (497-494Ma)ジャンシャニアン (Jiangshanian) (494-489.5Ma)< Stage10 (489.5-485.4Ma)に分かれます。特に両産地とも、真ん中のジャンシャニアンに主に相当するようです (ちょっとここは調査不足ですので、違っていたらすいません) 。

フロンギアンについては、またどこかで言及する機会がありそうなので、今回はこのぐらいにしておきます。

あと、更に別の角度からは、上図にも載っているように、産出する種で地層を分類するbiostratigraphyの話もあります (専門知識豊富な業者から購入した化石の、隅っこにたまに載っている、なんちゃら (三葉虫の名前が入る) ゾーンとかいうやつです。たとえば、Bolaspidera zoneなどのこと) 。

ただ、そろそろ私も文字の羅列に疲れてきましたし、読んでいる方も嫌気がさしてきたころだと思うので、今回はこのあたりにしておきます。

*         *         *

メノモニアの話からだいぶ脱線してしまいました。余談と雑談で、何だか相当な長文になっておりました。こんな長い記事を最後まで読んでいただき、ありがとうございました。 

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Name: Menomonia semele
Age: Middle Cambrian (Series3, Guzhangian)
Formation: Weeks fm

Location: House Range, Millard County, Utah, USA
Size: 11mm 
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長らくWeeksの標本は増えていませんでしたが、今回、久々に一つ追加されたので紹介したいと思います。

メノモニア・セメレ(Menomonia semele) 。市場でも比較的見かけるので、有名産地ウィークスの割とよく知られた種だと思います。

分類としては、従来の分類ではプチコパリア目・超科のメノモニア科に分類されておりました。新しい分類 (Adrain,2011) によると、科はそのままですが、目としてはUncertain (その他未分類) になってしまったようです。
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ウィークスの特徴の黄色寄りの母岩のちょうどど真ん中に、ポツンと配置されております。

こんな小さな種が1匹寂しく母岩に張り付いている様子は、本種のコミカルな見た目と相まって、どことなくシュールな光景です。時代も産地も異なりますが、ちょっとシュードキベレ (Pseudocybele) 感があります。ナメクジ系三葉虫とでも言いましょうか。

カメラで撮ると何故か母岩の色が見た目と変わってしまいます。そして、これまた何故かオレンジライトを当てつつ撮ると、蛍光灯下での肉眼で見た感じの色に近くなります(上写真の1番目)
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この標本、ディテールがかなりしっかりしています。

特に、特徴的な飛び出した眼や顔線 (facial suture) 、頭部先端のヘラの保存が良いです。それから写真での写りは厳しいのですが、ルーペで見ると、頭鞍の2列 x 3の顆粒、中軸の2列の顆粒などが、明瞭に観察できます。
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メノモニアの醍醐味の一つは、節の多い胸尾部であります。ただこの標本では、尾部がややぐちゃっとしていて、ここは少し残念な部分です。しかし、尾部以外は本当に鮮明で観察が楽しい標本です。

そういえば、若干話が逸れますが、胸節数の多い三葉虫のトップ3がなんという種か、みなさんはご存知でしょうか??

全種の中で最も胸節の多い三葉虫は、知っている方も多いかと思います。オーストラリアのカンガルー島、カンブリア紀前期 (series2のstage4:記事後半参照) の層より産出する、バルコラカニア・ダイリィ (Balcoracania dailyi) という種です。文献 (下記) によると、胸節は最大103節もあります。
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             オレネルス・フォレウリ 
そして、No.2はちょっと意外ですが、実はオレネルスの仲間であります。ネヴァダ州の同じくカンブリア紀前期 (series2のstage4) のピオチェ (Pioche) 累層などで産出する、オレネルス・フォウレリ (Olenellus fowleri) です。

一見そんなに節が多くないように見えますが、胸節の後半からきゅっと幅が狭くなる尾部のような部分があって、ここで節数を稼いでいるようです。胸節数は、最大で48節にもなるようです。 

そしてNo.3がこのメノモニアです。もっとも、メノモニアの中でも、セメレではありません。本種よりも希産の、Menomonia sahratiani (メノモニア・サラチアニ) という種です。

セメレよりも大型で、セメレとは異なり眼は飛び出してません。一見地味に見えますが、保存の良い標本は節が美しく実に見応えがあります。胸節数は最大44節とのことです。

以上の節情報は、文献 Systematics, paleobiology, and taphonomy of some exceptionally preserved trilobites from Cambrian Lagerstätt に依ります。
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ところで、セメレにせよ、サラチアニにせよ、なぜかウィークスのメノモニアの標本は、保存と姿勢が悪い標本が多いです。

側面を向いていたり、捻れていたり、セメレでは眼が欠損していたり、節や頭部のディティールが不鮮明であったり。マイナスポイントは様々ですが、とにかくこれぞ!!という標本が、極めて少ない気がします。
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ウィークスの他の種を見るに、褶曲やプレス等、地層の影響を受けている標本はむしろ少なく、姿勢が良い標本が多い印象です。

ですので、メノモニアの捩れや横向き、もろもろの悪い姿勢というのは、地層の影響でなく、本種の種としての形状としての性質なのかなと思っています。

これは完全な想像ですが、この三葉虫は死に際に体をねじったり、若しくは死後の筋収縮的な作用で捩れてしまうのじゃないかなと考えています。小さく細くて節が多いので、蛇腹のように簡単に曲がり、姿勢が崩れるんでしょうかね。
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セメレ自体はウィークスでも入手しやすい種です。ただ以上の理由で、良い標本を探そうとすると意外に無く、というか全く無く、私の知る限りは、本当に完璧と言える標本は、海外のオンラインウェブ博物館上の数標本のみです。

更にメノモニアは何故か、ちょっとでも捻れたり不鮮明だったり、頭部の状態が悪かったりすると、殆ど別種にしか見えないという困った種でもあります。

そんなわけで、しばらく入手をためらっていたのですが、この標本はなんだか私的にピンとくるものがあったので、取り寄せてみました。

尾部こそ不完全ですが、それ以外は本当に保存がよくとても気に入りまして、しばらく机に飾って楽しんでいます。  

*         *         *

ところで、これまでウィークスの三葉虫を集めながらも、私はあまり地理的な事、詳細な時代背景を把握していませんでした。

ウィークスは「なんか、ユタ州のハウスレインジという地域の付近にある、カンブリア紀中期の赤や黄色の母岩を持つ産地かな」ぐらいのぼやっとした理解でありました。

そこでせっかくなので、この機会にウィークスという産地についてまとめておきます。また、これまでカンブリア紀中期についてはちゃんと調べてませんでした。カンブリア紀のざっくりした年代分類と累層の関連などについても、後半に記述してみます。

以下、細かすぎて嫌になる方も多いと思いますので、適当に読み飛ばし下さい。ほぼ私の備忘録用のメモです。

*         *         *

まず産地の場所と産出種についてです。

ユタ州中央西部にハウスレインジ (House Range) と呼ばれる山脈があります。レインジとはここでは山脈を指します。このハウスレインジは、ユタ州のミラード郡 (Millard county) に属していて、南北に長く伸びている山々であります。
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この山脈には上の写真のように、はっきりと層に分かれた地層が露出しており、カンブリア紀からデボン紀の層が広い範囲に分布しています。

調べるに、その昔アメリカ陸軍将校であり、アメリカ地形技師会のメンバーでもあったジェームス・シンプトンという人物がいて、『なんだかハウスレインジの、凸凹した外形の一部がミレットやハウスの形に似ているなぁ』と思った事から、"ハウス"レインジと命名されたようですね。

この地域の、三葉虫関連の有名産地はよく知られるように、三つあります。今回のウィークス (Weeks) 累層に加えて、ウィーラー (Wheeler) 累層およびマージャム (Marjum) 累層です。
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Taphonomy and paleoecology of the "Middle Cambrian (series3) formations in Uta's west desert: recent finds and new dataより

ウィークスは、この中の産地では最南に位置しているようです。図の通り、上図のハウスレインジ沿いの2-4番がウィーラー、5-6番がマージャム、そして南の7番がウィークスサイトです。
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             上写真と同文献より
黄色〜赤色の母岩がこの産地に特徴的です。上は豊富に三葉虫や他の軟体化石などを産する、ウィークスのノース・キャニオン石切場の画像です。面白いことに泥岩質である黄色〜赤色の層と、灰色の石灰岩層が交互に層をなしています。

もしウィークスの分厚い母岩つきの標本を持っている方がいれば、黄色〜赤色層と灰色層が互い違いに配置されているのが、実際に観察できるんじゃないでしょうか。

この三産地では、コレクター受けする三葉虫が多いのですが、高価かつ希少な種が多く、コレクター歴が長い方でも蒐集は中々進みません。
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                                  モドシア・ティピカリス (AMNH所蔵標本)
さて、それぞれの層の代表的な種を挙げるならば、まずウィーラーからは北米で最も多産され供給量がぶっちぎりで多い、エルラシア・キンギ (Elrathia kingii) を選ばざるを得ないでしょう。

教科書に三葉虫の見本として掲載されているほか (今は知りませんが、私が学生の頃は) 、自然史系の博物館の売店で安価な土産物として売られております。ただ数が多いだけあって、時に保存状態の良い素晴らしい、好みの標本に出会うことがあります。

一方マージャムからは、北米でもトップ3に美しい種だと思う (私の好みですが) 、モドシア・ティピカリス (Modocia typicalis) を推したいです。最近は特に、すり鉢状に周囲の母岩をクリーニングした標本が流行っている気がします。とてもおしゃれなので、インテリアにもなりそうです。
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           ノルウーディア・ボニノイ  

そしてここウィークスに関しては、魅惑的な種が犇いています。ただどうしても1-2種挙げるのであれば、ノルウーディア・ボニノイ (Norwoodia boninoi) か、甲乙つけ難く、Tricrepicephalus texanus (トリクレピセファルス・テキサヌス) が代表選手でしょうか。

今回の記事に登場していない主な種を列挙しますと、

・セダリア・ミノル (Cedaria minor)
・クーセラ・キエリ (Coosella kieri)
・ゲネヴィエヴェラ・グラニュラトゥス (Genevievella granulatus)
・モドシア・ウィテレリ (Modocia whiteleyi)
・ウィークシナ・ウニスピナ (Weeksina unispina)
・メテオラスピス・ディス (Meteoraspis dis)
・セダリナ・シャッチ (Cedarina schachti)
・オレノイデス・スカベルンディ (Olenoides skabelundi)
・ドレスバキア・アルマタ (Dresbachia armata)
・メニスコプシア・ビーベイ (Meniscopsia beebei)
・デイラケファルス・アステル (Deiracephalus aster)

まだ他にもいると思いますが、この辺りがメインでしょう。それほど種数は多くないので、10数年かければ、全部集められる可能性もあります。ただオレノイデスなど、どうしても無理な種はおりますが。私はとりあえず、ここ数年、尾板大きめのクーセラが欲しいのですが、縁なく機会に恵まれません。

他に目立つ化石としては、ベックウシアが有名でしょうか。ウィークス産のものは、ベックウシア・ティパ (Beckwithia typa) といい、サイズは5-6cm程度が多い気がします。

寄り目に節のある胴尾部、長い尾棘をもち、一見、三葉虫っぽさがありますが、実際には光楯類/アグラスピス類という仲間に属する生物であります。ただ見た目通り系統は近く、細かい話ですが、三葉虫と同じアルティオポダ (Artiopoda) 亜門という分類群に入っていて、三葉虫に近い親戚のような生き物です。稀に市場にも登場しますが、すごい価格すぎて買えません。

他にもウィークスには詳細は省きますが、時代が似ていることもあり、バージェス型の生物の化石が産出します。

(続きます)

自分で読み返しても、あまりにも長いので、二分割しました。ただ二つに分けただけで、内容は変わっていません。

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随分長いこと気になっていて、ebayなどで出品がある度に入札を悩んでいた種なのだが、ついに入手することとなった。
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Name: Paradoxides davidis
Age: Middle Cambrian (Drumian)
Formation: Manuels River 
Location: Conception Bay South, Newfoundland, Canada
Size: 120mm 
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パラドキシデス・ダビディス (Paradoxides davidis) 。頭部〜尾部の直線径で120mmほど。

産地は、カナダのニューファンドランド島の、東の端に位置する、コンセプション・ベイ・サウス (Conception Bay South) という地域 (解像度が低く申し訳ないのですが、一応、上に島の地図を掲載) 。
Manuals River累層。時代はMiddle Cambrian (Drumian) のもの。
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今回のものは、出品者の方がebayに掲載した頃から狙っていた。

以後、動向を追い続けるも、終了2-3時間前までは全然価格が上がらず。これは『直前に一気に高くなるパターンだぞ』と思い込み、ある程度資金を用意し、終了の際に備えて『さあこい』と待ち構えていた。

しかし、それ以上値が上昇する事もなく、予想の1/3ほどの価格で、あまりにもあっけなく落札。どうやら終了直前にスタンバイをしていたのはほぼ私だけのよう。お財布的には有難いが、やや拍子抜け。

そう悪くない標本だと思うが、部分化石だと皆入札の意欲が削がれるのだろうか。
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悠久の年月を思わせる黒色の頁岩に、ほぼ同色の本体が張り付いている。頭部の大部分と尾棘の一部が欠損し、胸尾部境界で、グネッと左に逸れて曲がっているが、それ以外は程々に保存されている。

何より、尾板がしっかり保存されているのが嬉しい。後に言及するが、ダビディスには4タイプの亜種があることがよく知られていて、その鑑別にはこの尾板の保存が欠かせない。
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それから裏側をチラッと見て少し驚いた。

なんと非常に大きな個体の頭部がべったりと張り付いている。頬部こそないが、それ以外の頭部の要素はおおよそ揃っている。
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頭部のみで70mmほど。おそらく完全であれば、30cmオーバーの巨大な標本だったのだろう。おまけにしては随分豪華だ。

販売時に知らせてくれればいいものを、売り手もなかなか心憎い演出をしてくれる (そんな意図は全くないと思うが) 。
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ついでに、よくよく観察してみると、この大きな頭部の右側には、何か小さくて丸っこいものがへばりついている。

定かではないが、アグノスタスの一種のように見える。ちゃんと調べてないが、カンブリア紀の地層であれば、割とどこにでも顔を出す節足動物なので、その可能性はあるだろう。
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グロス・モーン国立公園 (カナダ観光局公式ホームページより)
さて、産地のニューファンドランド島だが、化石を抜きにしても魅力的な点が多過ぎる。自然、生物、歴史のいずれかを好む人にとっては、きっとたまらない島なのではないだろうか。

島といっても、北海道の1.3-1.4倍ぐらいの面積の、かなり大きな土地のよう。中でも、一番有名な観光スポットが、グロス・モーン国立公園だろう。この国立公園はニューファンドランドでも、西方のグレートノーザン半島に位置する。

上の写真は、そのグロス・モーンの有名観光スポットで、氷河で侵食され削られてできた、壮大なフィヨルド地形であり、船に乗ってクルーズが楽しむことができる。

また、今回のパラドキシデスの産地ではないものの、ここグロス・モーンからもカンブリア紀〜オルドビス紀にかけての三葉虫を含めた化石が観察できるらしい (なお、無論採取不可) 。他にも、隆起し露出したマントル地形なども観察でき、化石ファン、地質ファンならば、一生に一度行ってみたい場所だろう。

更に他にも、希少な野生生物や、極圏以外で観察できる巨大な氷山、1000年前のバイキングの遺跡(ランス・オ・メドー遺跡)とそれに纏わる『幸運者レイフ・エリクソン』、及びそこから派生して、幸村誠氏による名作漫画『ヴィンランド・サガ』の話など、本当は言及したい事がいっぱいあるのだが、記事が長文になり過ぎて収拾がつかなくなりそうなので、今回はよしておく。

いつかまた、別のニューファンドランド産の三葉虫を入手した機会にでも話そうかと思う。

そんなわけで、化石の話に戻る。

さて、このパラドキシデスと言う種は、最初に述べたように、大きく以下4亜種に分けることができる。

P. davidis davidis
P. davidis trapezoidalis
P. davidis brevispinus
P. davidis intermedius

記載論文である、Phenotypic variation in the Middle Cambrian trilobite Paradoxides davidis SALTER at Manuels, SE Newfoundland, 1975を参照に、この4亜種の違いを見ていく。

以下図表は全てこの論文より引用したもの。
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a. P. davidis davidis
b. P. davidis trapezoidalis
c. P. davidis breviceps
d. P. forchhammeri
(P. davidis intermediusは図の掲載なし)

最もわかりやすい特徴は尾部である。まず、ざっくり言えば、P. davidis davidisとP. davidis brevispinusは尻すぼみ型の細長い尾部をもち、P. davidis trapezoidalisとP. davidis intermediusは、幅の広い尾板を持つ。

P. davidis intermediusは上記の図に掲載がないが、P. davidis trapezoidalisがその名の通り、台形状の尾板を持つとすれば、P. davidis intermediusは台形の底辺がやや短く、長方形に近い。
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より細かく見ていく。上図の左上の尾部のイメージ図のように、近位の尾部の横径をW1、遠位の横径をW2とした際に、W2とW1の長さ比 (W2/W1: W2割る事のW1) を見てやる。この際、W2/W1が、

0.75付近→P. davidis brevispinus
0.70-1.05→P. davidis davidis
1.05-1.35→P. davidis intermedius
1.35以上→P. davidis trapezoidalis

と分類される。P. davidis intermediusのintermediusは、P. davidis davidisとP. davidis trapezoidalisの中間的なW2/W1値を持つ事にちなんだものである。

簡単に説明しておくと、上図表の黒丸●はdavidis davidisを、白丸○はdavidis trapezoidalisを、そしてバツ×がdavidis intermediusの一個体を示す。図ではこの3つがW2/W1の値によって、明確に3つの集団に分かれる事、そしてdavidis intermediusの分布が、黒丸と白丸の間に挟まれるように分布する様が見て取れるだろう。

一方、davidis brevispinusはこれがまた微妙で、先ほどのW2/W1値が0.75付近とされている。実際、上のグラフではdavidis brevispinusを表す黒三角▲が黒丸●とかぶっているのがわかるだろう。

ではどのようにdavidis davidisとdavidis brevispinusを区別するのだろうか?

実は、davidis davidisでは胸部の棘が後方になるに従い、徐々に長くなっていくのに対し、brevispinusでは (最後方の棘は除き) この棘の長さの増大が認められない。この点を持って、davidis davidisとdavidis brevispinusは分類可能と言うわけである。

davidis brevispinusのbrevispinus(短い棘)とは、本種の棘の特徴を明確にいい表している。
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さて今回の標本はどうだろうか。この標本が届く前には、私はぱっと見で、多分davidis davidisだと思っていた。

ただ、件のW2/W1を測定してみると、W1が11mm、W2が8mmと言うわけで約0.73となる。なんとも微妙なラインで定義上はdavidis davidisかdavidis brevispinusとなる。
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そこで件の棘の長さの出番だと言いたいところであるが、残念ながらこの標本の胸部下半の棘の状態はあまりよろしくない。

それでも、右胸部最後方の棘を起点に、数えて前へ三番目の棘を見てみると、棘の先端が尾部の先を越えていない事がわかる。

上の図aの通り、davidis davidisの場合、この三番目の棘は尾部を大きく乗り越えるようで(全てがそうではないかもしれないが)、この点からすると、むしろbrevispinusが合致するのではないかと思う。

そんなわけで、若干心許ないが、本種はP. davidis brevispinusではないかと考える。次点でdavidis davidisであるが、少なくとも尾板が幅広の、他の2種ではない事は確かだ。

 *     *     *

本種は欲しいものリストにも載せていた種であるが、一応、これで一区切りと言う感がある。

巨大な完全体が欲しくないと言えば嘘になるけども、そういう標本は、大コレクターのコレクションの放出でもない限り (そして、この種の完全体を放出を考えるコレクターは、そうそう現れるとは思えない) 、入手し得ないので、そんなものは機会があるにしても大分先の話となるだろう。

欲望の話はさておき、パラドキシデスの尾部と言うものは、中々バリエーションに富んでいて面白い。

カナダの本種と言わずとも、チェコのParadoxides gracilisや、モロッコのAcadoparadoxidesや欧州のEccaparadoxidesなど、もしお持ちの方は、自身の標本の尾部をよくよく観察してみると、なかなか面白いですよ。私はモロッコ産のパラドキシデスは未だ持っていないのですが、何か一種手に入れてみようかと言う気になってきました。

今回はこんなところです。ありがとうございました。

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5月いっぱい、いそいそと標本整理をしていたところ、収納ケースの奥から何やら良くわらかない標本を見つけた。これは2021年ごろ、ブログが休止する直前に入手した数点の標本のうちの一つ。

ひょっとすると、三葉虫に相当詳しい方でも、??となる種なのではないだろうか。第一、いちおうは過去に調査の上、購入したはずの私自身すら、ケース奥からこれを再発見した際には『なんだこの種は !?』と思ってしまった。

入手した記憶にも無い程度なので、その時点では、それほど愛着のある種でもなく、そのまま勢いでヤフオクで放出してしまおうかとも考えた。ただ、自分で楽しまない内から早々に出品するのは、転売じみている気がして、何となく嫌な気持ちになり止めた。
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それに、そろそろ真面目に標本紹介を再開したいと思っていてウズウズしていた。ところが、最近買った数標本は、海の向こうからなかなか届く気配はなし。

ある標本など、配達予定日をみると、5週間後などと出ている。こういうのは、購入時の熱が最高潮なので、あまりにも待たされると、届いた後、観察もほどほどに収納ケースに入れてしまいかねない。

そんな訳でブログを書くにあたり、最近は (いつも) 馬鹿の一つ覚えのように、American Museum of National Historyの画像をお借りしていた。しかし、他人 (AMNH) のふんどし (標本) で相撲をとる (記事を書く) のも、そろそろ辛くなってきたところ。猫 (埴輪、以下) の手も借りたい状況だった。

大体、この標本小さい上に地味すぎて、積極的に欲しがる方がいらっしゃるとは思えない。

そんな訳で、この標本は今回は放出される事なく、もう暫く私のところに留まる事となりました。
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前置きが長くなりましたが、こちらはハニワ・ロンガ (Haniwa longa) 。ハニワ = 埴輪という変な属名の種。
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Name: Haniwa longa (长形植轮虫)
Age: Upper Cambrian (Furongian)
Formation: Sandu fm, Guole biota

Location: Jingxi county, Guangxi Province, China 
Size: 8mm (上写真の中央の個体)
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広西チワン族自治区のサンドゥ (Sandu) 累層で産出。時期はカンブリア紀の後期であるフーロンギアン (Furongian)。4億9700万年〜4億8500万年までの、オルドビス紀の手前の時代。

当ブログでは、大分時間が空いてしまったものの、一応、サンドゥの三葉虫に力を入れて紹介している。そんなわけで本種は、久々のこの産地の紹介となります。
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母岩の中央に、小さく頬棘の長い三葉虫がうじゃうじゃと群れている。

一見、レドリキアの類に見えるも、ここサンドゥの三葉虫はその見た目と分類が一致する事がなく、予想がつかない種類が多い。どうやら、このハニワ、オレヌス目の中のレモプレウリデス超科-レモプレウリデス科に属すようだ。(Adrainらの分類に準拠)

そう言われてみれば、確かに他の地域でも、こういう"かさ"の無いレモプレウリデス系三葉虫を、偶に見かける気がする。カンブリア紀の原始的なレモプレウリデスと言えるのかもしれない。
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同じサンドゥであれば、一見、以前紹介したスピナマクロピゲの仲間にも見える。しかし、スピナマクロピゲは尾部が団扇型になっていて、一方、本種は尾部後端がギザギザしており、明確に形態が異なる。

この標本はその肝心の尾部がぼやけていて、例としては厳しいので、本産地関連の図鑑『新书速览之《隐藏的风景》』(隠された風景) のオンライン上に公開されている図を以下に貼る。
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こちらが、スピナマクロピゲの図。

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そしてこちらが、ハニワの図。

頭部や胸部後方の棘の構造もかなり違うが、最大の違いは尾部の4対の棘だろう。そもそも、本種はスピナマクロピゲほどには大きくならず、方々の標本を参照しても、サイズが1cm未満の小さなものが多い気がする。

上記の広西図鑑でも、『Guole生物群の大きな目を持つ三葉虫の一つで、頭部は一見すると「大尾棘三葉虫=スピナマクロピゲ」と似るが、西線 (顔線の事?) の構造、頭部の形態、棘の大きさなどで大尾棘三葉虫とは異なる。 またハニワ・ロンガの尾部は、Guole生物群の三葉虫の中でも、4対の特徴的で鋸歯のような、小さな辺縁棘がある。』などと紹介されている。 
(上はDeepLに放り込んだ翻訳を、少々手直ししたものですが、訳が間違ってたらすいません)

このあたりで、見てくれはかなり地味な種であるのだけれども、噛めば噛むほど味が出るスルメのような、調べれば調べるほど面白い種ではないのだろうか、という気がしてくる。
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そもそも、このハニワという気になる属名は何なのであろうか。

本種は、中国語で长形埴轮虫 (長形埴輪虫) といい、どうやらそのまんま、埴輪を意味するらしい。

ただ、埴輪は基本的には昔の中国にはなく、日本の古墳時代特有のもののはず。どういうことかと思い、更に調べてみると、このハニワ属自体は記載がまあまあ古く、著名な地質学・古生物学者の故小林貞一博士により、1933年に記載がなされている。同年、氏はH.quadrata、H. sosanensisやH.connisといった種を記載しているよう。H.quadrataなどの産地は当時の南朝鮮、つまり今の韓国あたり。

ちょっと経緯まではわからないが、小林博士がこれらの種を見て、古代の埴輪を思い浮かべたのかもしれない。長細いフォルムを見ていると、確かに何らかの埴輪に見えてくるような気がしないでもない。
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H. quadrataの原楯体 (Tae-Yoon park et al, 2011より)

あとは、H.quadrataに関しては、レモプレウリデスは従来アサフスに含まれていたが、原始的なレモプリウリデスであるH. quadrataの形態 (特に原楯体) を調べることで、アサフス目のように原楯体が球状になっていない事が判明したと。そして、この点をもって、レモプレウリデスがアサフスの分類から除外されるという説の蓋然性が高まった、というような旨のpaperも見つかった。
(注:かつては、ventral median sutureと呼ばれる、アサフス目特有とされた頭部裏側の真ん中の一本線構造が、レモプリウリデスにもあるという事でアサフス目に分類されていた)

別の2009年頃のAdrainらの研究を皮切りに、こうした事実の積み重ねもあって、レモプレウリデスはアサフス目に含めるべきではないという説が現在の潮流となりつつあるようだ。

このあたりで留めておくが、小さくて地味な標本にしては、調べれば色々な情報が出てきて楽しい。

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標本紹介再開ののっけから、ローカルマイナー種の紹介になってしまいましたが、次回は (あまりに遅く標本が届くのでなければ) 、もう少しメジャーな種の紹介をしようかなと思います。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

これまで2019年、2021年に欲しいものリストという記事を書いておりました。(2019年: 欲しいものリスト、2021年: 欲しいものリスト2021) 。ブランクを経た現在のリストを挙げてみようかと思います。意図せずも、2年おきの欲しいものリストの公開となりました。

まずは、前々回 (2019年) + 前回 (2021年) のリストを列挙してみます。最初の2年 (2019年〜2021年) で入手できたものを赤文字で、その後2年 (2021年〜2023年) で入手できたものを青文字で強調しました。
 
2019年リスト
・Olenoides serratus or O. superbus or O. inflatus 
Lochmanolenellus trapezoidalis (完全体)
・Bristolia insolens
Viaphacops claviger
・Dicranopeltis nereus
・Zacanthoides grabaui
Meteoraspis dis
・Staurocephalus susanae
・Didrepanon sp.
・Deiphon barrandei
・Sphaerocoryphe cranium
Pseudosphaerexochus hemicranium
・Metopolichas erici
Scabrella luxembourgensis
・Acanthopyge haueri
・Erbenochile erbeni


2021年リスト
Lochmanolenellus pentagonalis
Diacalymene schucherti
Bufoceraurus bispinosus
Paradoxides davidis
Neodrepanura premesnili

2019年→2021年の健闘に比べると、2021年→2023年の結果は
Lochmanolenellus trapezoidalis (完全体)の1種のみと、数としては不作でした。もっとも、この期間の殆どを活動しておりませんでしたので、当然の結果でもあります。

ここで、改めて欲しいものリストを整理してみました。けして、他のものに興味が無くなったという訳ではなく、現時点で、とりわけ興味のある種のみを書き出してみました。

2023年欲しいもの厳選リスト


Deiphon barrandei
Sphaerocoryphe cranium 
Dicranopeltis nereus
Bufoceraurus bispinosus
Diacalymene schucherti

この5種に絞られました。

世界のコレクターでも、限らられた方しか所有していないような、幻の三葉虫達のリストが出来上がってしまいました。計4年間の長期熟成を経たリストなので、これは真の欲しいものリストと言えそうです。

このリストの中に、もしも人から見向きもされないような地味な標本が混ざっていれば、何やら通っぽくて格好いいのですが、残念ながらそうはなりませんでした‥。

1. Deiphon barrandei
2. Sphaerocoryphe cranium 
3. Dicranopeltis nereus
4. Bufoceraurus bispinosus
5. Diacalymene schucherti


更に欲しいもの順にしてみました。日によっても変動するような僅かな順位なので、順位に大した意味はありませんが。

いずれも、値段云々を差し引いても、そもそも、入手の機会が極端に限られている種であります。大人しく博物館にでも行って、見るだけにしてこいよとでも諭されそうですが、コレクター人生を終えるまでに、この中の1種 (あるいは、、欲張って2種‥) 、入手出来たらいいなという心持ちです。

*     *     *

せっかくなので、これらスター三葉虫達について、それぞれ短いですがコメントしてみます。全部を紹介すると大変なので、トップ3のみ。それぞれの形態的な特徴や由来のみならず、市場の状況も簡単に書いてみようかと思います。

以下写真は当然、私の所有する標本ではありません。。
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The GB3D Type Fossils Online projectより

まずはこちら、ダイフォン・バランディ (Deiphon barrandei) 。記載者は英国の地質学者である、ウォルター・フレデリック・ウィッタード (Walter Frederick Whittard) 氏で、一見発見と記載が古そうな種ですが、実は1934年記載と、意外にも最近の話です。

今更ですが、ひょっとして、ラテン語的には『ダイフォン』でなく『デイフォン』とするのが正しいのかもしれません。が、ダイフォン呼びに慣れきった今、デイフォンではいまいち締まらず、ダイフォンは、もう誰が何と言おうとダイフォンでいいんじゃないかな、、と思っております。

種小名のバランディは、著名な地質学・古生物学研究者であるバランデ先生こと、ヨアヒム・バランデ (Joachime Barrande) 氏にちなんで、命名されております。

なお、当のバランデ先生は、チェコで近縁種のダイフォン・フォルベシ (Deiphon forbesi) を記載しています。もっとも、このフォルベシこそがダイフォンの模式種 (type species) であり、いわば元ネタであります。
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The GB3D Type Fossils Online projectより

さて、本種は英国のマルヴァンやダドリーといった古典的産地で産出することが知られており、同産地が好きな私としては、この奇怪種こそは、死ぬまでに入手したい標本と言えます。

本種を所有するのは国内では、私の知る限りでは、名古屋の三葉虫の著名コレクターである立松正衛 (たてまつ まさえ) 氏のみ。話が若干それますが、氏は過去に2回 ( かな? )、岐阜県博物館にて三葉虫展を開いておりますが、そろそろ三回目があるんじゃないかなと期待をしております。

膨らんだ頭鞍に、その脇からちょこんと飛び出た眼、まるで肋骨のような極限までムダを削ぎ落とした胸部、尾部から生える刺股状の尾棘と、三葉虫コレクターに、これでもかという程アピールする形をしてます。

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The GB3D Type Fossils Online projectより

一方、そのあまりの生き物っぽくない見た目の為、本物がレプリカらしく見え、レプリカが本物らしく見えるという種でもあります。

じゃあいっそ、別にレプリカでもいいんじゃない??と思わないでもないのですが、レプリカを入手すると、おそらく本物を入手しようとする意欲が、何割かは減衰してしまう気がして、あるいは皆無になってしまうような気もして、未だ手を出しておりません。

そんな強い自制心 (意味不明) を求められる種でもあります。

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Paleoartより

続いて、スファエロコリフェ・クラニウム (Sphaerocoryphe cranium)。記載者はロシアのステファン・セミョノヴィッチ・クトルガ (Stepan Semyonovich Kutorga) 氏であります、1854年記載。

サンクトペテルブルグ大学で、動物学や鉱物学を教える教授職にあった人物です。サンクトペテルブルグの地質図作成にも関与していたので、その傍ら、本種を記載をする機会があったのでしょうね。ダーウィンの進化論に、ロシア人専門家としては初めて好意的な反応をした人物でもあったようです。

もはや見たまんまなのですが、本種の特徴は恐ろしく大きな頭鞍を持つこと。

はち切れそうな、巨大で丸い頭です。いわゆる”頭ボール”三葉虫の筆頭であります。スファエロコリフェと名がつくものは、どの種も大きな頭鞍を持っていますが、本種は中でも特に巨大な頭鞍を持っており、スファエロコリフェ属としては、ボディのサイズも最大級であります。あとは、どうしても頭部が目立ちますが、刺股状の尾棘も本種のアピールポイントだと思います。

さて、こう書いていくと何やらデジャヴュを覚えます。
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Smithonian museumより

そうです、ダイフォンそっくりなのです。
それもそのはず、ダイフォンと同様にケイルルス亜目に属しており、更にその中でもダイフォンとスファエロコリフェは、かなり近いクレード (ダイフォン亜科) に分類されるようです。

そういう目で見てみると、このクラニウムも、胸部が骸骨のようにスカスカしているように見えなくもないですね。

ところで、ロシアの三葉虫というものは超希少種であっても、そのあまりの高額さゆえ、売れ残っていることが珍しくありません。しかし何故か本種は違います。非常に高額であるにも関わらず、基本的には、市場で見かける事はありません。

『欲しいなー、でもこんな高い化石は買えないな』と普通はなるものでしょうが、本種の場合、『欲しいなー、超高いけどスファエロコリフェだから仕方ないな』とでもなるのでしょうか。恐るべし、スファエロコリフェ、、。

私の知る例では、唯一、MF祭り (注:Master fossilという高級化石ショップが、ヤフオクで希少化石を安価かつ大量に出品したお祭り騒ぎが、数年前にありました) で、一体だけ本種を見かけた記憶があります。

あのスファエロコリフェ、今いずこ‥。

もしも、所有者の方が偶々、本駄ブログをみておられたら、気が向けば、どこかであれを公開してくれますと、私含め一部のコレクターがきっと喜ぶと思います。

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AMNHより

最後は、ディクラノペルティス・ネレウス (Dicranopeltis nereus) です。リカスの仲間は世界に数多おれど (希少種なので、数多はいないけど) 、リカス中のリカスと言える本種は、さながら三葉虫の帝王とでも呼びたくなる存在です。

記載者は米国の地質学/古生物学者、ジェイムス・ホール (James Hall Jr.) 氏です。1863年のこと。層序学の大家で、かのバージェス頁岩で有名なチャールズ・ドゥリトル・ウォルコット (Charles Doolittle Walcott) 氏などは彼の弟子であります。

ネレウスの特徴としては、全身に広がる顆粒状のぶつぶつが目立ちます。
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AMNHより

ネレウスに限らず、ディクラノペルティスの仲間は、表面を細かな顆粒が覆うリカスとして有名です。例えば、上の画像はチェコの、ディクラノペルティス・スカブラ・プロピンクア (Dicranopeltis scabra propinqua) 。完全体は、このAMNHの標本一体のみなのでは?という程の幻種ですが、同様に外殻の表面を細かな顆粒が覆っています。

ネレウスに戻ると、在りし日には、産出数は年間1体あれば良い方だったとのことですが、現在は産地であるロチェスター頁岩層は閉鎖されており、新規標本はもう完全に入手できなくなりました。本邦では、完全体は、せいぜいあっても2〜3体程度なのではないかと思われます。

国内ですと、コレクションサイトMuuseo (https://muuseo.com/) にて、Trilobitesさん (Museum of Trilobites) が素晴らしい標本を公開しておられます。表面のぶつぶつの質といい保存状態といい、惚れ惚れする標本です。

*     *     * 

どれもこれも、おいそれとは手に入る標本ではないので、10数年スパンぐらいで、ゆっくりやっていく事になりそうです。

こんなところでしょうか。

最後まで読んでいただきありがとうございました。 

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